北京旅行記の第7回目です。

今回は一つの街がお茶の店だらけ、と言うちょっと珍しい場所に行った時のお話です。
北京の中心部から南西にバスで40分ぐらい言ったところ、北京西駅の南にその街があります。そこではお茶に関するもろもろの商品、つまり茶葉や茶器などを商う卸売り商店が何百軒とあります。
 中国はお茶の国と言っても過言ではありません。当然北京市内にはあちこちにお茶を販売する小売店が多くあります。スーパーやデパートでも日本よりもはるかに広い売り場が必ずあって、台湾も含め中国中で生産されるありとあらゆるお茶が販売されています。
天安門に近い有名な商店街、大柵欄(だいさくらん)にある「張一元茶荘」など終日大勢の客で賑わう名店も数々あります。
しかし今回、北京でお世話になった韓さんに私たちが前もって案内をお願いしていたのは、一つの街がお茶屋さんだらけと言う、「馬連道(ばれんどう)」と呼ばれるお茶の問屋街です。盧溝橋に行った日の午後、市の中心部に帰る途中にその町があるので案内してもらいました。

バスを降りると、街の入り口には大通りをはさむ形で大きなアーチ型の看板があり、「京城茶葉第一城」と書かれていて訪れる人を迎えます。京城とは北京のこと、第一城とは一番大きい場所、街と言った意味でしょうか。
歩道を進んで行くと、ある、ある。通りは軒並み茶葉、茶器、茶具の店がずらりと並んでいます。またそうした商品の並ぶ店の中には、お茶に関係する美術、骨董品のような品物を並べている店もあります。
ここは先に書いたように卸やさんの街なので、一般市民はそんなに多く来ないそうです。
また観光地でもないので、おのぼりさんや外国人の姿もありません。だから店がそんなに多い割にはなにか人が少なく、閑散としたイメージがまずしました。それと言うのも、ここは中国各地から大量に茶葉などの商品を仕入れに来る商売人たちがおもにやって来るところだからのようです。しかし、小売もオーケーで、茶葉は50グラムからでも売ってくれると言います。
 お茶好き、とくに中国茶に関心の深い私にはもうたまらない街です。一軒、一軒せめてショウウィンドウだけでも覗きながらゆっくりと歩きたいのですが、例によって案内してくれる韓さんは、先へ先へと私たちを導いていきます。
そして歩くこと10分ほどで、それまで平屋作りの商店が続いていた大通りに面して、広い敷地に4階建ての大きなスーパーマーケットのような比較的新しい建物の前にやって来ました。

馬連道茶城の入り口に立つ陸羽像の写真 「ここだよ、馬連道茶城だ」と韓さん。この街の入り口に近いレストランで合流して、昼食をともにした韓さんの奥さんもニコニコしてうなづきます。
そうなんです、建物の中に百店以上のお茶屋さんが入っているこの建物が、この街のシンボルでもある茶総合卸売りデパート(?)「馬連道茶城」でした。
広い前庭に入ったすぐのところに、通りに向かって大きな銅像が建っているのが目に飛び込んできます。この銅像の主こそ中国のお茶の神様、あるいは茶聖とあがめられている「陸羽(りくう)」です。
 陸羽は唐の時代の人で、もとは僧侶、のちに詩人、書家、歴史家、文学者として名を上げます。しかし彼が昔から尊敬されて来たのは、中国ではじめてお茶の文化を体系化し、茶の木の栽培や、品種の分類、茶の入れ方、器具に至るまで茶についての詳しい解説をした書物、お茶の古典でありバイブルとも言われる「茶経」を著した偉大な先人だからです。
茶神(お茶の神様)、茶仙(お茶の仙人)、茶王(お茶の王様)などなど、陸羽にたてまつられた尊称は数多くあります。そんな陸羽の像に心の中からの挨拶をすませ、いざ建物の中へ。

一歩中に入った途端、わぁーすごい!
1階、2階はフロアいっぱいに小さく仕切られていて、そこには茶葉を商う店がぎっしり。
その数ざっと見て百以上!
そして中央の階段とエスカレーターを利用して3階に上がると、ここのフロアの半分は、1、2階と同じ茶葉の店がズラーッと並んでいます。ですが、残り半分のスペースは茶器、茶具の卸やさんになっていて、その名も「御茶園」、その昔は皇室御用達の名店だったとか。
店内には急須、湯のみ茶碗、茶杓などの小さな茶具の数々、茶盤(ちゃばん・中国茶道の必須アイテム、お湯をこぼす台)などなど色とりどり、さまざまな種類の商品が所狭しと並んでいます。またここでも茶葉も数多くの種類が販売されています。
 もう、私の細い目は皿のように真ん丸くなって、夢中で店内の品々を見て回ります。安いものも、高そうなものもどれもこれも素晴らしいし、面白いものばかりです。もちろん日本でも、また今までの中国旅行で何度も見ているものもたくさんあります。でも始めて目にするものが多くあって、まるで見飽きることがありません。
しばらく楽しく見て回っ私たちが疲れた頃を見計らった韓さん夫妻が、「さあ、お茶を試飲させてもらおうよ」と店の隅にある試飲コーナーに誘ってくれました。そこにはよく教育されて愛想の良い女性店員がいて、テーブルの向こうで次々と種類を変えてお茶を入れ、小さな杯のような茶杯(ちゃはい)で飲ませてくれます。
ジャスミン茶、ウーロン茶の一種である鉄観音茶、緑茶などどれも乾いた空気で乾ききった口とのどに特別美味しく感じられ、進められるままに何杯も飲んでしまいました。
一休みしたあと、結局この店では前から欲しかったガラス製の急須など数点を購入。値段は中国の一般の店よりかなり割安でした、と言うか、そう感じました。
 今度は韓さんがいつも行く店があるからと1階に移動、一軒の小さな茶葉専門店に入りました。店内はわずか三坪ほど、そんなに狭い店内に座る場所もないほど、床から高い棚の上まで緑茶、ウーロン茶、ジャスミン茶、プーアール茶、そのほか杜仲茶、ニンジン茶などもろもろの健康茶がびっしりと置いてあります。
韓さんはその店で福岡の娘さんに、私が預かって帰り、渡すことになっているお茶を何種類か店主から購入しました。
その間に明るくて機転のききそうな店員さんが、またいろいろとお茶を試飲させてくれます。もうさっきからの試飲で私たちのお腹はお茶でダブダブ状態ですが、お陰で色々と中国茶についての勉強ができました。

馬連道茶城・中国茶の試飲サービス嬢の写真 ところで、ここで買うことのできる茶葉の値段はどうか、つまりどのくらい安いかですが、北京市内の普通の店で買う値段の、だいたい3割から半値ぐらい、と言います。と言うことは日本で買う価格の多分1〜2割ぐらいでしょうか。とにかく安いのでビックリするほどです。ただし茶器などはそこまでは安くないとのこと、茶器、茶具は消耗品ではないのと、趣味の商品だからと言うことでしょうか。
 この日は韓さん夫妻の手前もあり、これ以上ゆっくりできないので、残念ながらこれで帰ることになりましたが、私たちとしては少し消化不良感が残りました。まだまだゆっくりと時間をかけて茶葉も見て買いたいし、茶器、茶具も見たい思いがあったのです。
そんなわけで、結局3日後の午後に、またこの「馬連道」の街へ出直し、半日いっぱいかけてゆっくりと見て楽しみ、茶葉や茶具の安いものをいろいろと買うことができました。
茶城のテナントの小さな店では、しぶとく値切る楽しみを実行したのは言うまでもありません。一例を言いますと、ある店で200元以下にはならないと言うお茶席の飾りにする陶器の可愛いブタの置物を別の店で見つけ、そこでは若い男性の店主を相手に頑張り、70元まで値切って買うことに成功したりしました。
結論として、馬連道はお茶の好きな人、中国茶に関心がある人がもし北京に行ったらぜひ訪れてみたら、とおすすめしたい街です。
でも、どこに行く場合もそうですが、充分時間をとって、じっくりと見て回らないと、そして少しばかり懐が暖かくないと本当の楽しさは味わえないですよね。
懐具合だけは私たちにもっとも欠けている要素なので、かなり物足りなさが残る場所でもありました。
それでも、とにかく楽しさいっぱいの空間が広がる街でした。

第7回・お茶の街、馬連道 おわり


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