北京旅行記の第4回目・天壇公園のその二です。

天壇公園は故宮(紫禁城)や万里の長城など同じく世界遺産、世界最大の祭祀建築物です。
北京へのツアー観光では必ずコースに組み込まれる場所として有名です。
 普通の歩き方としては、南の南天門から入って、円丘(えんきゅう)→皇穹宇(こうきゅうう)→祈年殿(きねんでん)と歩いて見て周り、北の北天門から出て、最後に長い廊下を通って公園の外に出るというコースを取るようです。
全ての階段の段数、柱の数が9の倍数でできている、大理石の巨大で複雑な造りの3層構造の基壇上に立つ祈年殿は、直径30メートル、高さ38メートルもある華麗な木製の巨大建築物で、円錐形の屋根は深い瑠璃色の鈍く輝く瓦で覆われていて、それが青空にそびえているところはため息が出るほど美しいものです。
 私たちは北の門から入ったので普通の観光客とは逆に南へ向かって進みました。足元は石造りのひろい大通りのようになっていて、太陽が足元から照り返し、体感気温は36〜37度ぐらいに感じます。
この天壇公園も私は二度目、妻はもちろん初めてです。全体をゆっくり見て歩くつもりですが、とくに今回は二人が注目する場所がありました。
それはほぼ中ほどに位置する皇穹宇(こうきゅうう・皇帝の先祖の位牌が安置されるところ)を取り巻く周囲が円になっている壁、通称回音壁(かいおんへき)というところで、ここは文字通り円形の壁に沿って音がぐるーっと回って反対側の壁の前で聞こえることで有名な場所です。
 じつは去年の秋だったか、NHKテレビ「ハイビジョン・スペシァル」で「天空に響け、仏法僧にささげる幻想曲」と言う番組があり、それを見て私たちはとても感動しました。その中で、作曲者の冨田勲さんが、どうしてこの曲を書いて発表する気持ちになったか、について話す場面がありました。
愛知県に鳳来寺山(ほうらいじさん)という、かつて初夏になると山じゅうにブッポウソウ、じつはコノハズクの鳴き声が「ブッポーソー、ブッポーソー」と響き渡った山があります。でも今では山を取り巻く環境がすっかり変わってしまい、ブッポソウつまりコノハズクがいなくなってしまった、もう一度その声を呼び戻そうというテーマでこの幻想曲が作られ、鳳来寺の自然を舞台に演奏会を開く。そんな番組です。
冨田勲さんと言えば、NHKの長寿番組であった「新日本紀行」のテーマ曲や、「花の生涯」をはじめ大河ドラマのテーマ曲の作曲者として超有名なかたです。
その冨田さんは子供の頃、北京に何年か住んだことがあり、ある時ここ天壇公園の、この回音壁の不思議な音の反響を 体験しています。そのことは何十年も経ってからあのシンセサイザーによる冨田サウンド、冨田勲独特の音楽世界を作り出す原体験の一つであったことが番組の中で紹介され、実際に北京・天壇公園の皇宇穹(こううきゅう)にある、この回音壁と不思議な音響現象がテレビの中に登場しました。
私たちは番組そのものにも感激したのですが、この回音壁にも強い関心を持ちました。
それで、今回北京天壇公園に来たこの日、ここへの訪問で一番立ってみたかったのがこの場所で、暑さも忘れて急いで歩いてきました。そして、実際にテレビで見た壁の前に立ちました。

天壇公園・皇穹宇にて奥様  先に書いたように私自身はここに立つのは二度目です。ですから、この不思議な音が伝わる壁のこともよく知っていましたが、大好きな冨田サウンドの、あの偉大な作曲者が少年の頃ここで不思議な音響体験をしたことを知った上で、改めて今実際にその場に自分がいると思うとなんとも言えない感慨を覚えました。
早速私たち夫婦は壁の反対側に離れて立ち、壁に向かって、と言うことは互いに背を向けて大声を出してみます。幸い観光客もそんなに多くなく、互いの声を直線距離で40メートルぐらい離れたところで、壁からやや遅れて伝わって来る音を聞くことができました。
ただ妻が大声を出すことに照れてしまってこの遊びをすぐに放棄してしまったのは残念でした。

天壇公園は全体の広さ、建物の美しさ、大きさ、スケール、どれをとっても壮麗なものです。それ自体いつまで見ても飽きないほど素晴らしいのですが、私の場合はここに来たのは、例によってほかにももう一つの目的があります。
公園の有料部分を抜けて出たところに長い屋根付きの廊下があります。ここには曜日に関係なく、多くの人たちが集まり、歌ったり、踊ったりそれぞれ個人や、グループでパフォーマンスを楽しんでいる場所があります。
日本でも公園や、都会の歩行者天国で若い人たちがパフォーマンスを繰り広げている場所はありますが、「ここ中国・天壇公園などでは、人々のほとんどが退職後の中、高年者であることが大きな特徴です。
 回音壁から後戻りしてやっとその場所に行ってみると、いるわ、いるわ、当日は土曜日と言うこともあり、いくらか年齢の若い人たちも加わりものすごく大勢の人たちが、歌い、踊り、演奏、コーラスをしています。どの人たちもまるで人の目を意識することなくそれぞれのパフォーマンスを繰り広げていて、観光客が向けるカメラにも平気でまさに夢中になって楽しんでいます。
一般に中国の公園では、太極拳や伝統的な健康法をやっている人が多いのですが、ここはさながら自分たちの得意芸の発表会、といった感じ。でも発表会とも違うのは皆が心底楽しみながら歌い、踊っているという感じです。
 そんな中にみんなからぽつんと離れて、大木の下で上手に楽器を演奏している老人がいたので近寄ってみると、なんとその楽器は音色も形も、日本の大正琴とそっくりです。おじいさんに(私もおじいさんですが)、「この楽器は何と言いますか?」と聞きますと、「中国で中山琴(ちゅうざんきん)、または鳳凰琴(ほうおうきん)」と言いますので、「じつは日本にこれと同じものがあり、大正琴と言います」と私が言うと、「そうなんだ、じつはこれは日本の大正琴そのものなんだよ」と言って紙に大正琴と書いてくれました。残念ながらなぜ彼がこの楽器を持っているのかを聞きそびれたのですが、改めてお願いして演奏してもらうと、本当に上手で感心しました。例によって録音させてもらったのは言うまでもありません。
天壇公園もツアー旅行だと、ものの一時間で通り抜けて「はい、次行きましょう!」になるところ、私たちは5、6時間もいたでしょうか、世界遺産の壮麗さと北京市民のパフォーマンスをゆっくり見せてもらって、でもかなり疲れはて、またバスに乗ってホテルに帰りました。

次の第5回目は、天壇公園に行った夜の食事で、有名な北京ダックを食べたことを書く予定です。お楽しみに・・・。

北京ダックへ続きます。
「もくじ」へ戻ります。
最初のベンチへ戻ります。

class="flt_left"